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毛布の思い出

大学1年生の時でした。
アパートと駅との間にある神社が解体補修工事をしていて、柵柱や灯篭などの石材が山積みされていたんですが、立ち入り禁止になってはいても、子供にとっては格好の遊び場所になっておりました。
ある日、子供たちが騒いでいるところに通りかかったので、何気なしに見てみると、小学生が積まれた石材の間から出られなくなっていました。
助け出そうと試みましたが、出られなくなった子はパニックで泣き叫んでいますし、下手をすると積まれた石材が今にも崩れそうな気がして手を出せません。
まだ携帯電話の無い時代です。
不安そうに傍観していた子供のひとりにその子の家に報せに行くよう頼むと、僕は消防署まで走りました。
消防署員が消防車で出動し、僕は遅れて署員の自家用車に乗せられて現場に戻りましたが、既に子供は救出されていました。
結果的には、簡単に救出できちゃったようです。
消防に出動要請をしたために書類の作成が必要とのことで消防署に戻りましたが、僕が慌てたために子供がパニックになったと消防署の人は密かに思ってるような物言いであり、大袈裟だったかとの後悔も加わって、僕は内心忸怩たるものがありました。
その日の夜、救出された子供の両親が訪ねてきました。
布団屋さんの子供だったと知りました。
そしてお礼にと、毛布をいただきました。
僕はその夜アパートの流し場で体と頭を洗い、歯を何度も磨いて、マスコミの取材を待ちました。
翌日も、マスコミの取材があるものと信じて疑わず、大学を休んで1日じゅう待っていました。
結局、マスコミの取材はありませんでした。
大学に現役で進学したばかりの僕は、相当に幼かったんですね。
過日別の街の布団屋で、お礼にもらった毛布の値段を調べてみました。
まったく同じものがあって、一番安いものだと知りました。
それでも僕は、その毛布をずっと使いつづけました。

カテゴリー: 思い出話

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