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ボウリング産業におけるインバウンドマーケティング

もう20年以上昔ですが、日本テレビ系列でやっていたビートたけしのバラエティ番組で、廃れた商店街に元気を取り戻す企画がありました。
番組で取り上げられた商店街は一気に人気が出るのですが、企画終了とともに置き去りにされ、忘れ去られていきます。
このあたりに「テレビの力の凄さ」と「一過性」が同時に現れていると、当時から思っていました。
特に基本的に「お笑い」という世界の価値観の中にあるバラエティ番組の場合は、「ノリ」という一時的トレンドが持ち味であり、持続しているものに「ノリ」はあり得ませんから、「ノリ」で得たものが持続するはずもなく、したがって持ち上げられて落とされたとしても、それはテレビ番組の責任ではありません。
一時的であれTVで得た集客からリピーターを得られれば、寂れた商店街も生き返ったでしょう。
しかし、多くのケースでそれが果たせなかったのは、TVが集める「客層」と商店街のリピーターとなるべき「客層」に、大きな隔たりがあったからに他なりません。
そもそもTVコンテンツによって消費行動に影響を受ける人種は「軽佻浮薄」に分類できますので、TVショッピングのようなマインドコントロールが無ければ、すぐに他へ移ろう頼りない消費者でありましょう。

さて話をボウリング業界に戻しますと、ボウリング業界にはTVで「ボウリング」を取り上げられることを過度に喜ぶ性質があり、また、そのために少なくない金額をマスコミとの窓口となる業者(人物)に献納しています。
考えるに、TVのような媒体に露出するアウトバウンドマーケティングで売り込むべき商材は、「ボウリング」ではなく「ボウリング場という施設」だと思います。
なぜなら、「ボウリング」がどのようなものを知らない国民は少ないでしょうから。
※だから、消費者が「ボウリングをするシーン」を見ることによって「ボウリングをしようという意欲」を触発できる、という仮説にも理はありますが。
TVで見せて集客効果を獲得しTV露出のコストも回収するには、「ボウリングをする(もできる)施設」と集客企画の紹介が合理的だと考えています。
したがって、新たにボウリング場を作るのであれば「施設として大衆の耳目を集め得るもの」でなければなりませんから、今度は建設コストの回収が大変です。
ともあれ、この論からいきますと、既存のボウリング場のほとんどは「お金を払ってまでTV露出する費用対効果を持った施設」ではありません。
また、前述の「廃れた商店街」の例にもあるように、TVの動員力は一過性が強く、また動員された消費者のニーズと対象となった消費財の「本質的な商品特性」との差が顕著なために、飽きられやすく「顧客」として定着しないという結果を招きます。

ボウリングというレジャースポーツの商品特性は捉え方によって様々ですが、「余暇消費」「趣味」「競技性」「団体行動」などが挙げられると思います。
「余暇消費」によって消費を得るためには、商圏住民の優先順位の上位にならなければなりません。
このためには、愛知県が成功しているように子供会活動を通じて幼少時期でのボウリング体験を浸透させる、などが考えられますが、時間がかかります。
※注意すべきなのは、エリートボウラー育成のための「子ども教室」では絶対数という意味で目的を達成できない、という点です。
「団体行動」では、多くの商圏において法人や地域コミュニティを対象にボウリング大会を販売していますが、この中から個人消費を得ようとする場合には、上記と同様、商圏住民の余暇消費優先順位の上位に入っていなければ難しいことです。
「競技性」重視の既存顧客が最も集客しやすいために、ボウリング場の営業施策はこれの偏る傾向があり、これが消費者の新規参入を阻んでいる可能性を疑ってみるべきです。
ブームが去り浸透したレジャーコンテンツが飽きられずに生き残るためには、国民の「趣味」となり、産業としてはその「趣味ランキング」の上位に位置づけられることを目指すのが合理的でしょう。
「競技性」はボウリングという商品の特性でもあり、向上心を刺激することはボウリング消費を促進します。
では、消費者の新規参入を阻む「競技性」を排除しつつ、消費者に「競技性」という商品特性を売り込むためには、どうすればいいのか。
競技団体が上級者→中級者→初級者という縦割りの組織であるならば、我々業界は、スキル毎の階層社会を用意すればいいのです。
ここで注意しなければならなのは、この階層社会は消費者の身近なレベルで内部完結していなければなりません。
消費者の新規参入を阻んできた「競技性」の正体が、「競技結果の序列によるステータスの存在」であったからです。
たとえ初心者大会であろうとも、全国大会化のような過度のステータスを与えてしまうと、本物の初心者は入ってきません。
競技結果によるステータスは競技団体に任せ、ボウリング場は「名前を覚えられる範囲」で同じレベルの消費者のコミュニティを用意し、その中に誘うことで顧客としていくべき時代だと思います。
マクロ化して商圏の拡大と商品の認知を広げるアウトバンドマーケティングではなく、ミクロ化して内部完結した消費者世界を創造してあげるインバウンドマーケティングが、「趣味」を販売してボウリング場という商業施設の生き残っていく、ひとつの手立てとなっていくように思います。
これによって得られる顧客の質は、同じマイボールユーザーであったとしても、従来の顧客ボウラーとは異質なものとなるでしょう。
ボウリング場側が大きな大会への参加やアベレージ向上、ニューボールの購入をせきたててしまうと、結果として顧客を失うことになりかねません。
中には自発的に通常の競技ボウラーに変質していく消費者も居るでしょうが、ボウリング場側が意識すべきなのは「従来顧客との異質性がビジネスとしてのノビシロ」という観点なのであります。

カテゴリー: ボウリング業界

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