コンテンツへスキップ →

業界を去る前に書き残す(1)

プレー環境や用具の品質にコストをかけるハイエンドユーザーの減少も、ボウリング業界の衰退と無関係ではないでしょう。新奇なレジャー・スポーツがブームとなっても、ブームとは一過性のものに過ぎませんから、人気のあるうちに愛好者を獲得してホビー・スポーツとなることが、参加型スポーツ産業が生き残るために必須でした。ボウリング産業が数十年を経ても、愛好家に支えられるホビー産業となっていない状況を振り返ってみます。

愛好家の集団であるアマチュア競技団体は、ボウリングにおいても本来は最重要な顧客であったはずでした。しかし、ブームにおける異常な集客力の中では、ゲーム消化速度の遅いボウリング愛好家は稼働率や収益率を妨げる存在となっていました。いっぽうでボウリングのアマチュア競技団体は、ボウリングをスポーツとして周知認証されるために、日本体育協会(現:日本スポーツ協会)への加盟を悲願としていました。
当時の体育協会は柔道や剣道など武道系が支配的であり、スポーツに精神性を求める文化が濃厚でしたので、高い身体能力を必要とせず、競技環境がボウリング場という遊戯施設であったボウリングは、スポーツとして認知されることが難しい時代でした。そのため、ボウリングのアマチュア競技団体は過度にピュアなアマチュアリズムを求める方針となっていき、除名された者が新たな競技団体を作る分裂や、ボウリング場経営者団体との対立を厭わない性質となっていきます。

ボウリングブームの終焉とともに、過当競争となっていたボウリング場は急速に数を減らしていき、業界にとどまったボウリング場経営者は、ホビー産業に舵を切ろうとしていました。
しかし日本体育協会への加盟を果たしたアマチュア競技団体は、唯一の公式なボウリング競技団体として、他のアマチュア競技団体やプロ競技団体を認めない立場をとっており、ボウリング場経営者との協調は難しいものとなっていました。

20世紀末から始まる「ラウンドワン」の出現と躍進は、ホビー産業指向にあった従来のボウリング場経営者に動揺をもたらします。
レジャー産業としてボウリング場を見直す動きが活発化しますが、「ラウンドワン」の業態を真似たボウリング場はことごとく失敗し、ボウリング愛好家を遠ざける結果だけが残りました。
「ラウンドワン」の成功とはボウリングのレジャー化による成功ではなく、ボウリング場を併設する複合遊戯施設として徹底的な広告投資と出店ラッシュによって「ラウンドワン」というブランドの確立に成功した、巨大なゲームセンターチェーン店のブランド化の成功に他なりません。業態の成功ではなくブランド確立の成功ですから、業態を真似しても消費者はついてきません。
そして「ラウンドワン」によって既存のボウリング場が駆逐されていきますが、ボウリング場の減少はボウリング消費そのもののトレンドを落とし、「ラウンドワン」のボウリング部門にも翳りをもたらしました。「ラウンドワン」もハイエンドユーザーではないライトユーザーのボウリング顧客層を作ろうと様々な施策にコストをかけてきましたが、参加型ホビー・スポーツ産業においては、ハイエンドユーザーを頂点とする顧客ヒエラルキー無くしてライトユーザーの定着はあり得ませんので、成功には至っていないのが現状です。

ボウリング業界ではハイエンドユーザーがプロライセンスを得て業界側の人間になる比率が極めて高いのですが、プロライセンスのある者を雇用して業界に入れるのではなく、顧客として消費者側に置いておくことが必要かも知れません。

カテゴリー: ボウリング業界