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重鎮を敬して遠ざける度胸

ボウリング場の集客策として今や一番多いのが、複数ゲーム数をパッケージ商品として、1ゲーム単価を下げる「お得感」を訴求しつつ、客単価をある程度維持する方法です。
商業施設の売上基本概念は「客数×客単価」ですから、客単価を下げる目的は客数を増やすことです。
消費のハードルを下げてリピート率の向上させ、客数を増やすことで売上向上を目指すのが、この概念の目的となります。
したがってこの集客策のターゲットはボウリングを繰り返し消費する消費機会のある客層ということになりますので、ボウリング消費動機の強いマニア客層、余暇時間が豊富で消費機会の多い大学生を中心とした若年層、リタイアしたシニア層ということになります。
ただし、若年層は消費資金力が乏しく余暇消費の選択肢が豊富であり、シニア層にとっては「運動」という商品の習慣的な消費には「健康維持」という目的と「安全」が担保されていなければなりません。
まず体力のある若年層からはマニア客層を産み出していかなければ、移ろいやすい消費マインドは短期間にボウリングから離れていきます。
大学生にボウリングシューズと技術書をプレゼントする新入生企画のような大胆な企画も、商圏に大学を持つボウリング場は予算化を検討してみるべきです。
スポーツとして本格的にボウリングに取り組む学生には、大会を通じて奨学金が得られるような仕組みも用意すべきでしょう。
卒業後に社会の各層で中核を担う大学生のなかに、青春時代をボウリングで燃えた体験者を増やす取り組みは、業界として有効な先行投資となるはずです。
シニア層への「健康産業」としての市場創生の障壁となるのが、ボウリングの競技性の基本となる「穴に指を入れて投げる」というボールの仕組みでしょう。
カーリングのストーンような「持ち手」があればシニア層に「安全」を期待させることが可能ですが、穴に指を入れる現在のボウリングボールの持ち方は、腱や関節が衰えている年代にとっては不安を抱かせます。
「ボウリングブームを体験している世代だから」という安易な決めつけは、ボウリングビジネスにとってリスクを孕んでいます。
彼らの多くは、若い頃の「我流」の投げ方が現在の体力・体調にとって危険であること、楽しくないであろうことを予測しています。
団塊の世代の大多数をボウリングマニアに出来なかったから、ボウリングブームは一気に冷めたのです。
シニア層は「ボウリングブームを終わらせた主犯格」の世代でもあることを、忘れてはなりません。
当時のボウリング業界が、ブームに驕って正しいボウリングの教導を怠っていたのが大きな要因です。
それぐらい稼働率が高く忙しかったのは事実ですが、目先の金銭欲を抑制して大局的な見地から「顧客作り」に向き合っていなかったのは、一時的なブームから国民が醒めた後のボウリング業界を誰も予測できなかったからです。
秀才ぞろいの官僚ですら年金制度の破たんを予測できなかったように、高度経済成長時代に活躍した日本人の思考は、あまりにも楽天的で粗雑だったと思います。
だからボウリング業界の先輩たちばかりを責めることはできませんが、ボウリング業界の20世紀の成功体験は、21世紀の役には立たないと言っても過言ではありません。
語弊を恐れず書くと、「重鎮を敬して遠ざける度胸」も、ボウリング業界や競技界の人間には必要だと思います。
ボウリング産業がビジネスとして成立しなければ、我々が愛した「スポーツとしてのボウリング」も滅んでしまうのですから。

カテゴリー: ボウリング業界

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